学校コンサルタント奥田雄一郎がこっそり教える「選ばれる学校」になるためのヒント

コアネット教育総合研究所プロジェクトリーダー奥田のブログです。テーマは主に、教育や学校経営、Web、ICTなど。

偏差値帯別に見る、私立中高一貫校改革のポイント【第2回:偏差値30台編その2】

こんにちは!コアネット教育総合研究所奥田です。


学校改革のポイントを「偏差値帯別(※)」に論じてみよう!
という趣旨で始まったシリーズ記事。今回はその第2回です。


今回も、前回に引き続き「偏差値30台」の学校について。


前回の記事を簡単に振り返りますと、


1.偏差値30台の私立中高一貫校は意外に多い。
 (東京都では、私立中高一貫校全体の約半数)


2.一方、偏差値30台の受験生はそれほど多くないので、
  同偏差値帯の中高一貫校の多くは生徒募集に苦しんでいる。


3.上記の状況から脱却するには、以下3点の再構築が必要。
   ・魅力的な教育ビジョン
   ・効果的な学力向上の仕組み
   ・時代のニーズを捉えた特色教育


といった主張をさせていただきました。
(前回記事の本文はこちらからご参照いただけます!)


第2回となる今回は、上記4で挙げたポイントの1つ目、
「魅力的な教育ビジョン」について論じていきます。


「魅力的な教育ビジョン」が、なぜ重要なのか?

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まず語の定義をします。ここで言う教育ビジョンとは
「育てたい人間像と、それを実現するための教育活動の指針」です。


「え?それってただの『言葉』でしょ?」


そんな風に思われた学校関係者の方は要注意!
それは「受験生保護者の本質的ニーズ」を浅く読みすぎています。


決して安くはない6年間の教育費用や、受験のための塾代、
さらには我が子の貴重な時間(受験勉強に1~5年間+中高6年間)を
費やしてまで、中学受験生の保護者が私立中高に求めるものは何なのか。


それは第一義には
「中高卒業後、我が子が幸せな人生を歩んでいけること」
なのではないでしょうか。


そして、ご家庭によっても、個々の子どものタイプによっても、
「何が幸せか」「それを得るために、どんな人間に育ってほしいか」
といった点に対する考え方は異なります。


そのため、これらの考え方と各校の「育てたい人間像」
合っているか、それを実現するための「教育活動の指針」が妥当か、
といった点が、受験生保護者にとって重大な関心事となるのです。


もちろん、既に一定の評価を得ている学校であれば、
教育ビジョンが抽象的だったり、一見、時代に即していなかったりしても
保護者の側で「勝手に」好意的な解釈をしてくれる場合もあります。


しかし、偏差値30台の学校の場合、そうはいきません・・・


「建学の精神」や「校訓」を抽象的な言葉で説明するだけでは、
残念ながら、魅力を感じてもらいづらい。


だからこそそれらを、受験生保護者にとっても魅力的な
「教育ビジョン」として再構築することが重要なのです。


三田国際学園の事例

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さて、生徒募集における教育ビジョンの重要性を確認したところで、
続いては「魅力的な教育ビジョンとは何か」という点について、
実際の学校の事例に沿って考えていきましょう。


前回予告した通り、事例として取り上げるのは三田国際学園中高
戸板女子中高が、2015年に共学化・校名変更して出来る学校です。


同校がスローガンとして掲げるのが
「創造と発想を教育の柱にする」という言葉。


私なりに解釈すると、この言葉は

「創造力・発想力に秀でた人を育てるために
 それらを育むことを重視した教育活動を行う」

というように変換できます。


多くの中高一貫校が受験対策や進学実績を重視する中、
「創造と発想」という一見それらから遠そうな力を
「教育の柱にする」と言い切っているところがユニーク
です。


(大学入試改革の議論の流れを見ると、むしろ今後は
大学入試でも「創造と発想」の力が必要になってくる
でしょうから、その潮流を先取りしているとも言えます)



さらに同校は、新しい校名そのものにも、私が言うところの
「教育ビジョン」的な役割を担わせています。


校名の前半「三田」は、かつて校舎があった地域の名前であり、
転じて同校の建学の精神に由来するそうです。
一方、後半の「国際」は、グローバル社会に由来するとのこと。


また同校のWebサイトでは「校名にかける思い」という
文章が掲載されています。その一部を引用すると・・・


”112年続く建学の精神を受け継いで、
『時代に適応した実学』を提供する場であり続けるために、
私たちはグローバル時代に生きる子供たちを育てる学校として
新たなスタートを切ります。”


つまり、新たな方針であるグローバル社会に対応した教育もまた
『時代に適応した実学』、即ち建学の精神から導き出される
ものだと言うことです。


そしてグローバル社会に対応できる力のうち、特に重要だと
同校が考えるのが「創造と発想」だということなのでしょう。


魅力的な教育ビジョンづくり「3つのポイント」

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さて、このような同校の事例を「魅力的な教育ビジョンづくり」
という視点で捉えると、以下3つのポイントが見えてきます。


1.建学の精神を受け継ぐ
2.独自の将来観から逆算する
3.自校の強みを活かす


まず1により、受験生保護者に「一貫性・継続性」という
価値を訴求することができます。


いくら先進的な教育活動を行っている学校であっても、
その内容が場当たり的に変わってしまうようでは、
受験生保護者の信頼は得られません。


特に積極的に改革に取り組んでいる変化の速い学校こそ
この点を重視した教育ビジョンになっているかどうかが
成否の分かれ目となります。


したがって、まさに大改革を実行中の三田国際さんの
教育ビジョンが建学の精神と密接にリンクしているのは、
生徒募集の面でも理にかなっていると言えます。



次に2の「独自の将来観」について、変化が激しく
将来が不透明な昨今において、


・予測しうる未来のうち、重要な変化は何かを明示し
・それに対応した教育ビジョンを提示する


ことは、受験生保護者の不安の払拭につながります。


換言すれば、受験生保護者は、我が子が生きていく
「将来」がどのようなものであるか、という点について、
共感できる(説得力のある)考えを提示する学校に対し
魅力を感じる、ということです。


三田国際さんは、この点を明確に意識し、教育ビジョンに
取り込んでいらっしゃるように感じます。


将来子どもたちが生きるのは「グローバル社会」であり
そこで重視されるのが「創造と発想」の力だという主張は
シンプルで分かりやすく、説得力があります。



最後に3の「自校の強み」について。


これは受験生・保護者に対し、競合校には提供できない
独自の価値をもたらすことができるか
、という視点です。


これは教育ビジョンというより、教育内容面のことだと
思われるかも知れません。


しかし実際には、やはり教育ビジョンの段階から、
この点を意識しておく必要があると、私は考えます。


例えば三田国際さんは、グローバル社会で生きていく
ために特に重要なのは「創造と発想」の力だと訴えていますが、
これがもし「語学力」だったら、どうでしょうか?


「それはそうだけど、当たり前だよね」
「そういうことを言っている学校は、他にもあるよな」


などと、感じてしまうのではないでしょうか。


実際には三田国際さんも、教育内容のレベルにおいては、
他校と同様かそれ以上に語学教育に力を入れています。


しかし、前面に出したのは「創造と発想」でした。


もちろん「創造」「発想」というキーワードを前面に
出している学校は他にもありますが、それをグローバル化
と結びつけて出しているところがユニーク
です。


そして、こういった独自性を教育ビジョンに組み込むのは、
受験生・保護者に注目してもらうために重要なことです。


「自校の強み(=独自性)」で興味をひき、
「建学の精神」でその一貫性を、
「独自の将来観」でその有効性を訴求する。


この基本構造は、魅力的な教育ビジョンをつくり、
そして伝えていく上で非常に大切な枠組みですので、
ぜひ覚えておいていただければと思います。



以上、またもや長くなってしまいましたが、このあたりで
「偏差値帯別に見る、私立中高一貫校改革のポイント」の
第2回を終わらせていただきます。


次回は、偏差値30台の学校の改革ポイントその2として
「効果的な学力向上の仕組み」をご紹介します。


それではまた!



※本稿で取り扱っている「偏差値」についての補足です。

<補足1>
今回取り扱う「偏差値」は、中学受験のもの。
幅広い層が受験する「日能研模試」の合格80%予想偏差値です。


<補足2>
一般に、中学受験の偏差値は、同じ学校であれば、
高校受験に比べ15~25ほど低く付く、と言われています。
したがって中学受験で「30台」の学校でも、高校受験では
「50台」あるいは「60台」ということも、よくあります。

<補足3>
入試回によって偏差値が異なる学校の関係者の方は、
最も低い回についての記述をご参考ください。